その「拡張路線」が、検査忌避までして不良債権を隠蔽しなければならなかった旧Sの
惨状
につながった。
検査忌避で逮捕されたのは頭取直轄の「戦略支援グループ」の岡崎和美副頭取、早川潜常務、稲葉誠之執行役員審査第5部長の3人。
いずれも旧東海ではなく、S出身であるところに「W時代」の傷跡の深さがある。
そのW元会長が、不良債権処理会社に名を連ねていたら矛盾だろう。
本来なら、Uを
消滅
に導いた「戦犯」
時代のせいであり自分に責任はない、というのかもしれないが、結果責任を取るのが組織の長である。
旧拓銀、旧長銀、旧日債銀の経営破綻時の頭取たちは、バブル崩壊後の処理のまずさを責められて、刑事責任を取らされた。
バブルを演出した頭取たちは「時効のカベ」に守られて難を逃れたが、刑事責任と社会的責任は別である。
銀行どころか日本経済を揺るがし、公的資金を投入する事態を招いた責任はすこぶる重い。
ところが、W氏はそう感じていないようだ。
旧Sの処理部隊の中核であるI氏が設立に関与したエフ・アール・シー・ジャパン(FRC)という会社が東京都中央区京橋にある。
代表取締役社長を務めるのは旧Sの出身で、現役時代から不動産処理で名を馳せていた清水美滞氏。
同じく旧S出身で、海外勤務が長く不動産流動化にも強い小林滝雄氏が代表取締役専務を務めている。
同社もまた不動産証券化や債権ファンドを組成、企業再生などを通じたコンサルティング業務を行うという意味で、フューチャープロデュースと同じような業態といえるが、設立が2003年7月と遅く、「処理の中核」を成したというイメージはない。
だが、先の1000億円ともいわれる青山ライズスクエアとタラント両社の不良債権処理においては、FRCは仲介業者として関与、利益を得るなど、確実に絡んでいる。
つまりFRCは金融庁の嫌う銀行OBが設立した親密不動産会社なのだが、W元会長は設立直後から長年6月まで取締役を務めていた。
今は顧問
しかもFRCホームページの「会社概要」の役員欄には、元S銀行頭取としてその名が記されていた。
旧Sの元役員が撫然とした表情で吐き捨てる。
「S銀行は派闘争いが激しいところでした、
なかでも壮絶だったのが、代末のW会長と佐伯(尚孝)頭取の争いでした。
結局、二人は『両成敗』の形となって、同時に退任、室町(鐘緒)頭取を誕生させて幕を引きますが、しこりは残り、派閥は継続します。
OBで不良債権処理に強く、不動産会社に関与しているのはW派の連中です。
自分たちが作った不良債権で儲け、それを元手に第二の人生を歩んでいる。
そこに不良債権のク権化のような人がいて、恥ずかしげもなく名をさらしている、
同じ銀行にいた人間として恥ずかしい」。
メガバンクの誕生はリストラの嵐を呼ぶ。
経営統合といっても、主導権を握った銀行が人事を押さえ、握られた銀行の幹部は弾き飛ばされる。
Uの誕生では東海が弾かれ、M東京UではUが淘汰された。
生き残り競争は苛烈で、強い連帯感で結ぼれた派閥は互いに助け合う。
旧SのW派が主導すると思われる不良債権処理会社は確認できただけでも印社近くあり、役員に名を連ねるような幹部は幼名を超えた。
もっとも、翌年間月のMUフィナンシャル・グループの発足で、彼らは役割を終えたと見るべきだろう。
その後は、フューチャーやFRCのように、元銀行幹部の経験を生かした不動産や企業の再生請負人として能力を発揮している。
また、弾きだされた銀行幹部の「受け皿」としての機能を持ち、熟年者を揃えたコンサルタント会社という新しい形態を備えている。
銀行が産業界に血液(資金)を流し込む主体であった時代は、株の持ち合い構造が確立、揺るぎない法人資本主義のもとで、銀行員は望まれて企業に移籍、「第二の人生」を歩むことができた。
高級官僚が「天下り人生」を確保されていた構図に似る。
経済成長期が保証したその幸せな人生設計は新たな成長路線を見いだせず、カネがあふれたバブル期に終意。
その次の社会システムとして用意された株主資本主義のもとでは、銀行員も高級官僚も自助努力を迫られた。
だが、意識改革は容易ではない。
旧Sの事例のように、OBが現役との不良債権処理の二人三脚の末、そこで得た仕事とカネを手切れ金代わりに「第二の人生」に踏み出すのは、彼らの意識では当然のことなのだろう。
産業と金融の蜜月が終われば、行き場を失ったカネは自己増殖本能から金融で稼ごうとする。
それは金融機関としての本来の役割
を逸脱しているという遠慮もあって、銀行は金融資本主義の持つ捧猛さを隠してきた。
バブル期に地上げ、株上げ、リゾート地の乱開発、ゴルフ場の建設などを積極的に演出したのは銀行だが、その融資窓口は系列ノンバンクであり、自らが母体行である住専であった。
そしてバブル崩壊後は母体行責任、貸し手責任で膨大な不良債権を引き受けなければならず、その処理もまた各行は、銀行OBなどが経営する親密不動産会社に飛ばしていった。
結局、銀行はカネ余り経済が定着してから信用創造機能を発揮できずにいる。
そこには、ファンドや投資銀行に象徴される国際金融資本の論理で突っ走ることのできない「紳士であるべき銀行」という呪縛
がある。
しかし国が国民の預金に保証を与えず、金融機関の護送船団を解き、逆に金融庁が対立する存在となった時代に、いつまでも無意味な隠蔽を続け、偽装を繰り返しても仕方ない。
「アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪をひく」と言われたのも今は昔、グローバル化はとめどなく進み、日本の金融引き締めがアイスランド・クローネを暴落させ、上海株の下落がベトナム株やインド株を連鎖安にして、日本の新興国市場好きな投資家を破産に追い込む時代である。
日本の論理だけで銀行経営が成り立つわけはなく、間違いのないことは、生き残りを図るためには、欲望を是認するシビアな国際金融の道を選択するしかないということだ。
それがいいか悪いかは別問題である。
カジノ化する資本主義をこのまま是認すべきか否かは人類共通の課題として、テロ、環境、資源などと同じレベルで、国際的に討議すべき段階にきている。
その際、正すべきは隠蔽であり偽装である。
誰も銀行員に「紳士であれ」と望んでいるわけではなく、ファンドと同じレベルで金融機関を選ぶのだから、伝えるべきはリスクとリターンの正確な情報だ。
リスクを取るのが嫌なら、たとえ普通預金の金利が0・1%以下でも、金庫代わりに預金を考える人はいる。
担保されるべきは信用である。
罪は偽装であり、迂回融資も飛ばしもとんでもない。
それが金融の時代を生きる国民の成熟度であり、「旧SのOB会社への飛ばし」という構図は、完全に過去のものにしなくてはなるまい。
官民一体の偽装「金融の時代」を迎えて、銀行は変わらざるを得ない。
その変化は金融行政がもたらしたものであり、それは国家と国民との関係の変化を意味する。
明治維新以来、連綿と続いてきた日銀・旧大蔵省の超エリートの手による資源配分は、バブル経済を機に途絶えた。
「読み」を外し、経済を混乱させたエリート官僚たち。
産業界同様、キャッチアップの時代に通用した彼らの経験則は未踏の荒野を切り開く成熟経済の時代には役には立たず、そうなるとエリート官僚には任せておけない。
やがて金融機関同士がしのぎを削り、国民が自己責任で資産を管理する時代となった。
実際、バブルを生み、バブルを壊したのは金融行政である。
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